南仏、ラベンダーの聖地巡礼《ヴァランソル高原編》

ラベンダーの聖地、ヴァランソル高原。
プロヴァンス地方最大級の面積を誇る、ラベンダー畑の集積地である。

今回の旅の目的の一つが、ヴァランソル高原だ。南仏からラベンダーを輸入する者として、大規模農業としてのラベンダーも見ておかなければならない。岩山に咲く儚げな真正ラベンダーの花と、高原の一面に咲くラベンダーの花に違いはあるのか。身を以て知ることが大切であると常々教えられてきた私は、どうしても現地に行って、この目で確認しておきたいのだ。

今回、マノスクからの交通手段を自転車という方法にした。

自由にあちこちを動き回れて、駐車場も時間も気にしなくて済む。なんと便利な交通手段であろうか。と行くまでは思っていた。それに、グーグルマップ氏は丁寧な解説で片道1時間半程度と教えてくれた。

それを疑いなく信用した私は、マノスクに一軒だけあるレンタルサイクルショップへ出かけた。

フランス仕様の肩幅が広すぎて全くフィットしないマウンテンバイクは、途轍もなくスピードが出る代物。バイクショップの店員さん曰く、本来ならば電動マウンテンバイクがあるとのことだったが在庫切れのため貸し出せないとの事。ヴァランソルに行くには電動が必須という。

 

なんと、マノスクからの20キロの道のりの全行程が上り坂である。

今更というやつで話にならないが、ヴァランソルは「高原」である。…ということは標高が高い場所にある。だから、登らなければいけない。標高200mのマノスクから標高700mのヴァランソル高原まで、微妙な上り坂が延々と続いているのである。

大きいマウンテンバイクを漕ぎ始めて1時間。まだ半分ほどという場所で休憩。

7月31日は快晴。日中の気温は37度。自動車道を漕いでいると、後ろから猛スピードの大型トラックが通りすぎていく。「大型」というと語弊があるかもしれないが、タイヤが人間の背よりも高いトラックである。

トラックの荷台には25mプールがそのまま入るのではないかというくらいの大きな箱が積んである。その中は、木材やら自動車やら、トラックごとに色んなものがこぼれ落ちそうなくらいになっている。

 

そんな恐怖の自転車旅を経てたどり着いた高原の入り口である。すでにラベンダーが一つたりとも存在していない。さすがに時期が遅すぎたらしく、全て刈り取られてしまっていたらしい。美しすぎる畝だけが残っていた。しかし、ここで諦めるわけにもいかないので奥へと進むことにする。

 

先程までの地獄の坂道とは打って変わって、気持ちのいい真っ平らな高原を進むと見えてきたのは、観光用に刈り残してあるラベンダー畑である。ついにヴァランソル高原のラベンダーとご対面の瞬間!

ここの「Terraroma Jaubert」という家族経営の農家では、ラベンダー畑とひまわり畑を観光客用に1区画だけ刈り取らずに置いておくらしい。なので、ここだけラベンダーの開花時期を逃した観光客で賑わっていた。

 

ところで、ヴァランソル高原にあるラベンダーというのは、正確にはラベンダーではないことをご存知だろうか。このラベンダーは、品種改良されたクローン種ラバンジンという品種である。

真正ラベンダーとスパイクラベンダーの自然交配によって生まれたラバンジンは株が大きく、エッセンシャルオイルが効率よく採取できるのが特徴で、大量生産ができるという理由から1930年頃に急速に品種改良が進み、多くの農園で普及した。

そういうわけで、標高700m前後に位置するヴァランソル高原で見れるのは、一面に咲くラバンジン、ということである。花の色は濃い紫か灰色っぽい紫で、クローン栽培なので花の色や株の背丈はビシッと揃っている。流行りのインスタ映えには最適かもしれないが、香りの面では真正ラベンダーに劣るため、多くが洗剤や芳香剤などの工業用となる。

すでに満開の時期は終わっており、花がない状態のラベンダー畑。すでに灰色っぽくなっていて、香りもあまり漂ってこない。それでも気持ちがいいのは、広大な景色のせいだろうか。

株分けしたばかりの小さなラベンダー。まだ小さな花が力強く咲いている。あと2〜3年ほどすれば先程の畑のように大きな株となり、たくさんのオイルを採取できるようになるだろう。

収穫済みのラベンダー畑。畝がビシッと揃っていて絵柄のような畑。

ここは、先程の「Terraroma Jaubert」から5分ほど行ったところにある「Lavande Angelvin」という農家。こちらもお土産ショップが併設されていて、ラベンダーの様々な製品を購入することができる。

この牧歌的な風景を堪らなく気に入った。いつまでも眺めていたいのだが、そんなわけにもいかない。高原をしばらく走っているとついにヴァランソルの街が見えてくる。この村を越えるとヴァランソルの街である。

ヴァランソルの市街地は丘の上にあって、なだらかな坂に面した町である。この街を中心として、取り囲むように高原がある。いわばラベンダーに囲まれた街というわけだ。

街の中心には噴水があって、湧き水を無料で飲める。ものすごく美味い。自転車旅が過酷だったせいなのか、身体の隅々まで水が浸透していく。

この辺りにはレストランやカフェもあり、観光案内所もあるので、休憩がてら寄ってみるのも悪くないと思う。観光案内所では、どのあたりにラベンダー畑があるか尋ねると丁寧に教えてくれるので、ラベンダー畑の場所がわからない人は是非立ち寄ってみることをオススメする。

ヴァランソルの街を通り過ぎて、D8をさらに奥へと進む。

遠くに見えるのは、ヴェルドン峡谷。標高1500mほどの断崖絶壁の崖が、少し霞んで遠くに見える。

もはやラベンダー畑を諦めて、地形を楽しんでいるだけのような気もしてくる。実際のところ、今回の工程を自転車旅にしてみて正解だったと思い始めた。ラベンダーが栽培されている場所の複雑な地形の凹凸や、標高差、畑の区画など、ツアーバスや自動車ではわからないものが沢山目に入った。

アナログで時間も手間も体力もかけた旅の仕方ではあるが、それ以上に発見の方が大切である。

すると、少しだけラベンダーが残っている場所があった。

どうやら収穫の最中のようなので、トラクターに乗っているおじさんに声をかけて撮影の許可を得た。収穫の様子を撮影しても良いとのこと。折角許可を頂いたので、収穫中の畑の中に入らせてもらった。

巨大なトラックがコンバインと同時に並走して、刈り取ったラベンダーをそのままコンテナへ積む。

ラバンジンのエッセンシャルオイルの採取は、多くがこのコンテナ蒸留と呼ばれる方式を取っている。満杯になったコンテナはそのまま蒸留所へ運び込まれ、コンテナに積んだまま水蒸気蒸留で30分ほどでオイルが採れる。

真正ラベンダーとは目的も用途も違うので、この方法で良いらしい。自転車で走っていると、コンテナにラベンダーを載せたトラックが何台も猛スピードで通り過ぎていった。

帰り道に出会ったラベンダー。通り雨が上がったばかりの時に見つけた畑は、すごく綺麗だった。

 

そして、行きで3時間もかけた自転車旅は、帰りではなんと1時間足らずで到着。ずっと下り坂の道で猛スピードで下っていくマウンテンバイクを操るのは大変。ただし、車では行けないような場所や面白い出会いや発見もあったりするので、一度くらいはこういう旅も良いと思う。(私は2度としたくないが…)

帰宅後の一献。農協の直売所「Couleurs Paysannes」で見つけたラベンダー蜂蜜入りの地ビールで疲労困憊の身体が生き返ります。

本当に美味しいので、誰か日本に輸入してくれませんか。。。

そして、いよいよ次回から真正ラベンダー復活の村、アルジャン村へ向かいます。

乞うご期待。

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