AOPとBIOの違い《 ラベンダー精油の認証制度 》

AOP / AOC について説明する理由

久しぶりに、旅行記ではない真面目な話をします。

産地レベルで、あるいは、さらにマニアックな人( 私のように…)であれば「農園レベル」でエッセンシャルオイルを選ぼうとするときに、どの認証制度がどんな役割を担っているか一度くらいは考えたことがあるかもしれません。

例えば、あまりに複雑すぎるビオ認証制度などを一度で理解するのは全く簡単な話ではありません。それこそ、民間の様々な認証制度を合わせると星の数ほどあると言っても過言ではなさそうです。「ビオ」というフランス語は、日本では「有機」英語では「オーガニック」と言われ、今や、それらの認証は世界中で巨大なオーガニックビジネスを生み出しています。私たち消費者は、( 品質も環境にも)より良い製品を選択するために、オーガニックビジネスの世界を理解しなければいけないのでしょうか。

 

先日、私はあるフランス人とAOPについて話をする機会がありました。AOPとは、フランス政府が定める伝統的な農産物などに対して品質を保証する制度です。

彼は、もちろんAOP/AOCというフランス政府が定めた品質認証制度のことは生まれながらにして知っているし、彼のバーテンダーという職業もあってワインやチーズなど様々な農産物に適用されることも、その価値についてもよく知っていました。

 

そんな彼がこう言ったのです。

「AOPのラベンダーだったら品質に間違いない。これが本物だ。」

そのフランス人と会話している中で見つけた結論がこちら。

仮に、オーガニックラベンダーとAOPラベンダーが置いてあったとして、どちらを使いますか? 

____ フランス人「AOPラベンダーでしょ。」
____ 日本人「オーガニックの方が安心よねー。」

と、こんな風な答えになるではないかということになりました。

皆さんは、いかがでしょうか。

そういうことで、日本のアロマテラピーに関わる全ての人、そして、香りを愛する全ての人に向けて「AOP/ AOC」の制度について、また、フランスのBIO(ビオ)について解説したいと思った次第です。

ここまで序文で長くなりましたが、お付き合いください。

ラベンダー精油の認証制度について

プロヴァンス産ラベンダー精油(エッセンシャルオイル)に関する品質認証制度は、大きく分けて2つあります。

まずは、1981年にフランス政府が定めた「A.O.C. – 原産地呼称統制」と呼ばれる制度。そして、1992年にそれを発展させる形でEUが定めた「A.O.P. – 原産地保護呼称」という制度です。両者ともラベンダー精油に関しての認証に差異はなく、現在ではAOPのラベルを用いることがほとんどとなっています。

 

そして、1985年に同じくフランス政府によって制定された「ビオ認証 – Agriculture Biologique」(ロゴ右)

農業先進国のフランスでは、1970年代にはすでに有機農業が注目を集めており、法整備に関する動きがありました。食品であれば、有機農法による成分が95%以上であることなどが定められました。ちなみに、EU規格の「葉っぱのマーク」のラベルよりフランスのABマークの方が厳格のようです。



ラベンダーに関する公的な品質認証は上記の2種類であり、現地の農家で販売されているものは2つのうちのどちらか、あるいは、全くラベルを有していないかの3通りです。

なお、ここでは民間の認証制度は取り上げません。取り上げるとキリがないですし、ラベンダーに関してはプロヴァンス地方で民間の認証制度だけを「売り」にしている農家がほとんど見当たらないからです。

ラベンダー精油のAOP認証について

フランス農水省が1981年に制定したAOP制度は、主に2つの保護に対する考え方から成り立っています。

一つは、産地に対する保護制度。原産地の地理的要因から生まれる特性によって品質が大きく変わる場合において、その地域の名産物として名乗ることが出来ます。土地は有限の資源なので、それには希少価値が発生します。

ラベンダーの場合、正式には「オート=プロヴァンス産ラベンダー精油」という名称がつけられています。オート=プロヴァンス地方とは、ドローム県・ヴォクリューズ県・オート=アルプ県・アルプ=ド=オート=プロヴァンス県の4県で成り立っています。

ちなみに、畑から蒸留所まで一貫してこの地域内に有している必要があります。さらに、畑は標高800m以上であることが規定されています。

さらに、原料に対する保護制度。原産地で栽培される原料で、かつ伝統的なものである必要があります。

 

プロヴァンスのラベンダーでは、伝統的に「真正ラベンダー」という品種が栽培されてきました。学名では「Lavandula Angustifolia」と呼ばれています。この品種は野生ラベンダーに由来するもので、ラベンダーの中で最も華やかな香りを持ち、「青い金」の別名をつけられるほど高価格で取引されてきました。AOPでは、「真正ラベンダー」であることと、クローン種でないことが定められています。

 

なお、一般的に流通するラベンダーは、クローン種や「ラバンジン」という品種改良種です。2008年のデータでは、生産量にしてラバンジン精油が950トン、クローン種ラベンダー(ラベンダー・マイエットなど)精油は18トン、AOP真正ラベンダー精油は10トン程度になっています。

また、AOP認証はほとんどが小規模な農家に与えられる制度であり、工業的/商業的なラベルではありません。そのため、AOP認証は「生産の起源」を辿ることができる唯一の制度となっています。

AOP認証の条件

「AOP オート=プロヴァンス産ラベンダー精油」に認定されるには前述の2つの条件の他に、ラベンダー精油の品質に関わる条件があります。

・100%純粋で天然の真正ラベンダー精油であること。

・生産地、蒸留所の証明ができること。

・伝統的な栽培方法

・蒸留が水蒸気蒸留法であること。

・第三者機関での成分分析(クロマトグラフィー)で、規定内の成分であること。

・ロット、生産量の管理、保管場所の状態

・匿名の複数の専門家による香りの嗅覚検査

・販売体制(トレーサビリティー)

特に、伝統的な栽培方法という条件があるため、ラベンダー畑では、全くあるいは、ほとんど農薬や化学肥料を用いずに栽培されます。

AOP認証の価値

元々、原産地や原料の偽装に対する保護制度として始まったAOPの制度。今では、オート=プロヴァンス産ラベンダーのエッセンシャルオイルの品質価値を規定する唯一の制度として、消費者の賢い選択に一役買っているわけです。

ちなみに、ラベンダーでAOPが認定されている地域はオート=プロヴァンス地方のみです。それは、最も高品質なラベンダーが伝統的に栽培されてきた地域だからです。

フランスでは伝統的な農産物を購入する場合、まずはじめに考えるのは「AOP」に認定されているかどうか。ラベンダー精油において「ビオ」はあくまで補助的な役割にすぎません。単に有機農法を定義づけているだけにすぎず、品質を保証する制度ではないからです。

 

また、フランス人の中には、「ビオ認証」自体が商業的な手法だと考える作り手や消費者が少なくありません。

農薬や化学肥料の有無によって価値が図られるのではなく、植物のもつ「香り」そのもので判断してほしいと願うAOPラベンダー農家は、無農薬、無化学肥料であるにも関わらず、独自の栽培方法を確立して、敢えてビオ認証を取得しないこともあります。

また、「ビジネス」のためにビオ認証だけを取得して、考え方自体は変わらない農家がいる、と推察する消費者も少なくないと言います。

伝統を継承すること

このような背景からフランスではAOPのみがラベンダー精油の品質を認証する制度として確立されてきました。それは、プロヴァンス地方でラベンダー文化が2000年以上にわたって継承されてきた証であり、また、本物のラベンダーの香りを後世に残したいと願う農家の希望でもあります。

農薬や化学肥料を用いずに自然の力で植物を栽培しようとする試みは、相当な努力が必要で賞賛されるべきものです。しかしながら、本来の農作物の価値は、農薬や化学肥料の使用の有無ではないはずです。

 

どこで、誰が、どのような想いで、その香りを作っているでしょうか。

植物の「生命力の源」であるエッセンシャルオイルを使わせて頂いている私たち人間は、作り手とそこに咲く花々をよく想像する必要があるのかもしれません。