真正ラベンダーとラバンジンの違いとは

目次

原種と交雑種の違いが、香りの違い

真正ラベンダーとラバンジン(ラバンディン)の違いを最もシンプルに言い表すならば、それは真正ラベンダーが原種であるのに対し、ラバンディンは交雑種ということになります。つまり、品種が違います。品種が違うので香りも違う、という事になります。

元来、ラバンディンは低地で育つスパイクラベンダーと山岳地帯で育つ真正ラベンダーが交錯する中間地点でミツバチの受粉などによってできた自然交雑種と言われています。しかし、現在の南フランスで主に栽培されているラバンジンは株分けなどのクローン栽培などによって人工的に増殖した品種であることが多いようです。

真正ラベンダーの原産地

「真正ラベンダー(Lavande Fine) 」または「本当のラベンダー(Lavande Vrai)」とも呼ばれる原種の真正ラベンダーは、地中海周辺の山岳地帯、主にオート=プロヴァンス地方の固有地域で栽培されており、種子によって自然に繁殖します。フランス政府が認める原産地保護呼称に公式に認められるのはこの真正ラベンダーの野生種から栽培されるものだけです。また、その真正ラベンダー精油は生育地によって香り成分が変化するため「ラベンダー・ポピュラシオン(個体群)」と呼ばれます。

南フランス・オート=プロヴァンス地方の標高800m〜1400mのアルプス山脈の麓で野生種が見られ、私たちブルーダルジャン農園はこの地域の標高1400mの山岳地帯にあります。

ラバンジンの原産地

真正ラベンダー (Lavandula angustifolia) とスパイクラベンダー (Lavandula latifolia) の交配から生まれた自然交雑種です。主にフランスのプロヴァンス地方とドローム地方で栽培されます。標高400m〜800m付近で栽培され、特にプロヴァンス地方のヴァランソル高原は世界最大級のラバンジン栽培面積をもちます。

ラバンジンは育成が容易なため高原などの広い大地で大規模栽培が可能であり、現在生産されるラベンダー精油の99%以上がラバンジン精油となっています。

ブルーダルジャン農園の無農薬真正ラベンダー畑
ヴァランソル高原のラバンジン畑

真正ラベンダーとラバンジンの成分表の違い

真正ラベンダー精油とラバンジン精油の香りを成分表の視点から見ると、最も顕著に違うのはカンファー、その次に1.8シネオールである。カンファーは日本語で「樟脳」と言い、かつては強心剤のことをカンフル剤とも言ったように精神興奮作用がある成分です。

ラバンジン精油に含まれるカンファーが5%〜15%と多量に含まれるのに対して、真正ラベンダー精油はAOP基準で0.5%以下となります。ブルーダルジャン農園の真正ラベンダー精油は直近5ヵ年分でカンファーが0.19〜0.33%の割合で推移しています。

また、ラバンジン精油に含まれる1.8シネオールが4%〜8%程度であるのに対し、真正ラベンダー精油はAOP基準で1%以下となります。1.8シネオールは抗菌抗ウイルスで知られる成分のひとつです。別名ユーカリプトールと言われる通り、ユーカリの主成分として知られています。

ラバンジンが清涼感ある強烈な香りになるのは、1.8シネオールやカンファーの割合が大きく違うことにあります。また、真正ラベンダー精油が華やかな香りとなるのはこれらの成分が少ないことにあります。

また、標高が高い地域の真正ラベンダー精油ほどカンファーの割合が少ないことが分かっています。これは害虫が少ないことに由来すると考えられており、より柔らかな上品な香りになります。

真正ラベンダーとラバンジンの近代文化史

1920 年代から1930 年代が真正ラベンダー栽培の最盛期「黄金時代」とされています。実際に、当時のラベンダー精油の価格は金の価格に匹敵するまで上昇しました。1年間の収益だけで農場を購入し たり、家を建てたりできるほどでした。アルジャン村では最も高品質な真正ラベンダーが収穫できるとして高値で取引されたと言います。このことから、真正ラベンダー精油を「青い黄金」と呼ぶようになりました。

1920 年代後半、農夫が低地に咲いていた「ろくでなしラベンダー」の存在に気がつきました。現在では 「ラバンジン」と言われるスパイクラベンダーと真正ラベンダーの自然交雑種です。真正ラベンダー の10倍の収油率( 同量の花に対して抽出される精油の量) となり、高効率、高耐性の植物であることを発見しました。

地元では「太っちょラベンダー」「ろくでなしラベンダー」と呼ばれていたラバンジンですが、 1930 年代に確立した挿し木技術によって瞬く間に産業化・近代化が進められました。1928 年には、 フランス・ニヨンでラベンダーの収穫用の機械が発明され、実用化されています。

 

その後、品種改良によって高耐性なラベンダーやラバンジンが数多く開発されました。現在でも 名前が残っているラベンダー・メイエット[1970]、ラバンジン・グロッソ[1957] などが代表格です。 これらは、全て人工的に開発された品種で不稔(タネを作らない)のでクローン栽培で生産されており、 主に工業用香料、真正ラベンダーの代替、動物用飼料などに使用されています。

1960 年代にはラバンジンの台頭によって真正ラベンダーの精油価格は急落、また合成香料が発明されたことによって香水原料としての需要が急落、1970 年代には多くのラベンダー農家が収入を失い、 農園を放棄して、村を離れていきました。

野生種から育てる真正ラベンダーが絶滅の危機に晒されました。 その結果、1980 年代以降は真正ラベンダーは一般消費者向けの製品には使用されなくなり、より安価な合成製品が真正ラベンダーに取って代わりました。

 

しかし、1985年にフランス政府によってAOC(原産地保護呼称)が制定され野生種の真正ラベンダーの保護制度が始まりました。高品質な真正ラベンダー精油の香りを復興させる農家が登場し、高級香水と漢方薬やアロマテラピーの 発展による医療分野という、その歴史の中で最も権威のある 2 つの分野において、今でもかけがえのない存在であり続けています。

 

一方で、交配種ラバンディンの台頭によってプロヴァンス地方の風景が一変した事実も述べなければいけません。

70 年代にラバンディン大量生産のために根こそぎにされたヴァランソル高原のアーモンド果樹園を覚えている人がいるでしょうか。 紫色のラベンダーの山がプロヴァンスの特定のイメージに不可欠な部分であるなら、それ以前の様子や将来どうなるかを想像できる人がいるでしょうか。私たちがイメージするラベンダーの風景は本当に、ジオノが書いたように、多くのツアーガイドが主張するように「プロヴァンスの魂」なのでしょうか。

フランス政府が保護する真正ラベンダーは、南仏プロヴァンス地方の山岳地帯に育つ高山植物なのです。

ブルーダルジャン農園の野生ラベンダー(標高1500m)

ラバンジン精油はアロマテラピー用ではない。との生産者の話

7月〜8月にかけてプロヴァンス地方の田舎に出かけると毎週末どこかしらの街で開催されているラベンダー祭り。2024年、僕はヴァランソル、バレーム、そしてディーニュと3ヶ所のラベンダー祭りを訪れることが出来ました。

そこには多くのラベンダー農家、正確には真正ラベンダー農家、ラバンディン農家が生産者自ら直接販売をしているマルシェを訪れることが出来ます。もちろんブルーダルジャン農園も全てのラベンダー祭りに参加しています。

そんな中、僕は3ヶ所でほぼ全てのラベンダー農家のブースを周り、香りを嗅ぎ比べたわけですが、面白いことに生産者が口を揃えて言うには「ラバンディン精油はアロマテラピー用ではない」と言うのです。加えて「これは家庭の掃除や虫除けに使ってください」と念を押されるほど。これはオーガニック(ビオ)に認定されているラバンディン精油も同様でした。

なぜかといえば、アロマテラピーには香りが強すぎるから向いていない、とのこと。刺激成分のひとつであるカンファーの配合割合が10倍以上も多いのです。

ラバンディン精油はアロマテラピー用にしては香りのバランスが悪いようです。芳香浴やお風呂、香水、マッサージオイル、またスキンケアを手作りする際には良質な真正ラベンダー精油を使用してください、と全ての農家さんが言うのであるから間違いないだろう。

ご参考になりますと幸いです。

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